
夏になると「犬の熱中症」という言葉を聞く機会が増えます。ただ、具体的にどんな症状が出るのか、どこまでなら様子を見てよいのか、どの段階で応急処置や受診が必要なのか、はっきり分からない飼い主も少なくありません。犬の熱中症は進行が速く、重症化すると命に関わる危険な病気です。
この記事では、犬が熱中症になりやすい理由から代表的な症状、家庭でできる正しい応急処置の手順、動物病院での治療内容、日常での予防策までをまとめます。飼い主が迷わず判断し、すぐ行動に移せるよう、ポイントを整理して解説します。
犬が熱中症になりやすい理由と危険性

英国ロイヤル・ヴェテリナリー・カレッジ(RVC)が約90万頭の犬を対象に行った研究では、「熱中症と診断された犬の致死率は14.18%」と報告されています。さらに「軽度なら致死率は2.21%にとどまる」のに対し、「重度まで進行すると56.76%に跳ね上がる」とされ、半数以上が命を落としている計算です(Hall, E.J. ら)。
この数字は、「早く気づき、早く応急処置と通院を行えるか」が、命に直結することを示しています。
犬の体温調節のしくみ(パンティング)
犬が熱中症になりやすい大きな理由のひとつは、「人間のように汗で効率よく体温を下げられない」体の構造です。人間は全身の汗腺から汗をかき、その汗が蒸発するときに熱が奪われ、体温が下がります。
一方で、犬は汗腺が足の肉球など一部にしかありません。汗による放熱にほとんど頼れない仕組みです。
代わりに使っているのが、口を開けて「ハァハァ」と浅く速い呼吸を繰り返す「パンティング(喘ぎ呼吸)」です。口腔内から気道、舌の表面などの水分を蒸発させて熱を逃がします。この仕組みが働くには「空気がよく流れていること」「十分な水分がとれていること」が前提になります。
湿度が高く空気がこもる場所や、水分補給が不十分な状態では、パンティングだけでは体温を下げきれません。
獣医師の解説でも「犬の熱中症は体温調節が追いつかず命に関わる病気」と明記されています。犬の体温が40〜43℃に達すると危険な状態とされ、「呼吸の乱れ、よだれ、ふらつき、嘔吐、痙攣、失神などの症状が段階的に現れる」と説明されています(佐藤貴紀獣医師)。
これは、パンティングだけでは放熱が追いつかず、内臓や脳、血液凝固系など全身に障害が出始めているサインと理解できます。
このように、犬は構造的にオーバーヒートしやすい体を持っています。そのため、人間以上に熱中症リスクを抱えやすいといえます。
人間の5〜17℃高い環境にいる犬の現実
犬は体の仕組みだけでなく、置かれている環境の面でも人間より不利な条件にあります。地面に近いほど気温が高くなることはよく知られていますが、獣医師監修の記事では「地面に近いほど気温が高く、犬は人間より5〜17℃高い環境にいる」と解説されています(PETOKOTO獣医師解説)。
たとえば、飼い主の目線で外気温が30℃だとしても、アスファルトに近い小型犬の体感環境は、それよりかなり高温になっている可能性があります。アスファルトやコンクリートは熱を吸収して蓄えやすく、日が沈んだ夕方以降も表面温度が下がりにくい素材です。
そのため「夕方だから大丈夫」と考えて散歩に出ても、犬にとってはまだ危険な暑さというケースもあります。
保険会社のデータからも、犬がどれだけ熱中症にさらされているかが分かります。アニコム損害保険株式会社の保険金請求データによると、「2025年の熱中症による診療件数は犬で1,439件」にのぼります。さらに「診療件数は6月から激増し、ピークは7月」とされ、「梅雨の晴れ間や梅雨明け直後など、体が暑さに慣れていない時期こそ注意が必要」とまとめられています(アニコム損害保険「犬と猫の『熱中症週間予報』」2026年)。
アイペット損害保険の2024年の調査では、「暑い時期に愛犬の体調変化を感じた飼い主」は53.0%、「熱中症と診断されたことがある」は9.4%、「暑さによる不調と診断された」は16.6%でした(アイペット損害保険「<犬編>ペットの暑さ対策に関する調査」2024年)。多くの犬が暑さの影響を受けている現状が分かります。
つまり、犬は
- 体温調節の方法が限定的(パンティングに頼りがち)
- 人間より5〜17℃ほど高い環境にいることがある
- 夏の初期から体調を崩す犬が多い
といった条件が重なっています。人と同じ生活リズムや行動パターンで過ごすだけで、熱中症の危険域に入りやすい状況になりやすいといえます。
重度になると致死率56%超——熱中症が命取りになる理由
前述の英国RVCの研究では、「熱中症と診断された犬の致死率は全体で14.18%」とされています。一方で「軽度では2.21%」にとどまり、「重度では56.76%」にまで急上昇することが示されています(Hall, E.J., Carter, A.J. & …)。
この差は、「重症化する前に気づき、適切な対応を取れるか」が、そのまま生存率に影響することを意味します。
獣医師による解説でも、「体温40〜43℃は危険な状態で、重度では死亡や後遺症の可能性がある」と明言されています(佐藤貴紀獣医師)。体温がこの範囲まで上がると、次のような全身性の障害が一気に進行し始めます。
- 脱水や血液の濃縮
- 循環不全によるショック
- 内臓(肝臓・腎臓・消化管など)の障害
- 中枢神経系の障害(痙攣・意識障害)
- 血液凝固異常(DIC)
一命を取り留めても、腎不全などの後遺症が残るケースもあります。「助かったから安心」と言い切れない病気です。
また、熱中症は「真夏の炎天下の屋外だけ」で起こるわけではありません。アニコムのデータが示すように、診療件数は6月から急増し、梅雨明け直後など体がまだ暑さに慣れていない時期に多く発生しています。
室内飼いの犬でも、エアコンを切った部屋や直射日光が差し込む窓辺、風通しの悪いクレート、車内などでは、短時間で危険な温度・湿度に達することがあります。
こうした背景から、獣医師や保険会社は「散歩時の時間帯・路面温度、室内の温度・湿度管理が予防の基本」と繰り返し注意喚起しています(佐藤貴紀獣医師)。とくに「意識がない場合は動物病院への連絡と早急な搬送が勧められる」と明記されており、重度が疑われるときは、自己判断で対応に時間をかけないことが重要です。
犬の熱中症は、「早く気づけば助かる可能性が高く、重症化すると一気に致死率が跳ね上がる」病気といえます。犬の体の仕組みと置かれやすい環境、そして数字が示す危険性を踏まえると、「今日は少し暑いだけだから大丈夫」という考えが危険につながることを意識しておく必要があります。
愛犬の4分の1が経験——熱中症が起こりやすい状況

熱中症は「特別なケース」だけで起こるわけではありません。一般の飼い主の身近で起きているトラブルであることが、複数の一次データで明らかになっています。
ここでは、どんな場面で、いつ起こりやすいのかを数字で確認し、「夏だけ・外だけ」という思い込みを見直します。
散歩中だけじゃない!室内でも約3割が発症
一般財団法人日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、全国の犬の飼い主325名を対象に、愛犬の熱中症に関するインターネット調査を実施しました(2019年7月調査)[1]。この調査によると、
「愛犬が熱中症にかかったことがあるか聞いたところ、24.3%が『ある』と回答しました」[1]
とされています。およそ4頭に1頭が一度は熱中症を経験している計算です。
愛犬の熱中症はまれな病気ではなく、多くの家庭で起こり得るトラブルと考えるべき状況です。
さらに同調査では、熱中症になったことがある犬について「どのような場面でかかったか」を質問しています。結果は次のとおりです。
「『日中、散歩している時』44.3%に次いで多かったのは『室内で過ごしている時』29.1%でした」[1]
発症の約3割が「室内で過ごしている時」に起きています。多くの飼い主が「いちばん危険」とイメージする日中の散歩中(44.3%)に次ぐ頻度で、家の中でも熱中症が起きている実態です。
同プロジェクトのプレスリリースでも、
「愛犬が熱中症にかかるリスクは、屋外の散歩中のみならず、屋内でも!」[2]
と強調されています。「外に出さなければ安心」という認識が誤りであると分かります。
とくに注意が必要な環境として、次のような場面が挙げられます。
- エアコンを切った締め切りの部屋
- 直射日光が差し込む窓辺やサンルーム
- 風通しの悪いケージ・クレート
人が「少し暑いけれど我慢できる」と感じる環境でも、犬は汗による放熱がほとんどできません。短時間で体温が上昇しやすく、室温と湿度の影響を強く受けます。
実際に、ペット保険会社アイペット損害保険の調査では、犬が熱中症にかかった・かかりかけた場面として「家の中でお留守番中」が最も多かったと報告されています(※公表資料要旨)。屋外よりも、飼い主が油断しやすい室内で多く発生している点は、日本気象協会のデータとも一致します。
これらの数字から分かるのは、危険なのは「炎天下の散歩」だけではないという事実です。「なんとなく暑い室内」や「少しの間の留守番」も含めて、熱中症のリスクが存在します。とくに応急処置が遅れやすい留守番中は、気づいたときには重症化しているケースも珍しくありません。「室内でも熱中症は起こり得る」という前提で環境管理を行うことが重要です。
熱中症が急増する時期は6月〜8月(4月から要注意)
熱中症が起こりやすい時期については、ペット保険大手アニコム損害保険の診療データが参考になります。同社は加入している犬・猫の保険金請求データを集計し、「熱中症で動物病院を受診した件数」の月別推移を公表しています。
公表資料によれば、熱中症の診療件数は6月から大きく増え始め、7月にピークを迎える年が多いとされます。2024年のデータでは、
「2024年は4月から増加傾向」
と報告されています。春の段階から熱中症による受診が目立ち始めている状況です。
気象庁も近年の暖候期の高温傾向を指摘しています。昔よりも早い時期から暑さ対策が必要になっていると考えられます。
日本気象協会の調査では、飼い主が愛犬の熱中症を意識する時期として「7〜8月」が圧倒的多数を占めます。一方で、
「愛犬の4分の1(24.3%)が熱中症にかかった経験があることがわかりました。愛犬が熱中症にかかることは、決して珍しくないといえます」[2]
とまとめられています。実際には、飼い主が十分に意識していない6月や、「まだ春」と感じている4〜5月にも熱中症は起きていると考えられます。
とくに危険なシチュエーションは、次のような場面です。
- 梅雨の晴れ間の蒸し暑い日
- 暑さにまだ体が慣れていない初夏(5〜6月)
- 真夏日が続いたあとの残暑(9月頃)
アニコムの獣医師は、熱中症の見分け方や応急処置の解説の中で、「日中の気温だけでなく湿度や前日までの暑さも考慮し、6月頃から本格的な対策を始めるべき」とコメントしています[3]。
4〜5月でも、最高気温が25〜28℃を超え、湿度が高い日は体感以上に犬の負担が大きくなります。「夏本番前だから大丈夫」とは考えない方が安全です。
車内・留守番中が最も危険な場面
一次データを見ると、「どの場所が特に危険なのか」も見えてきます。前述の日本気象協会の調査では、発症場面として「日中の散歩」「室内で過ごしている時」が上位でした。その他の回答には、
- 車の中で待たせていた時
- 家の中でお留守番中
といったケースも含まれていると報告されています[1]。これらの場面には共通点があります。「短時間だから大丈夫だろう」と飼い主が油断しやすいこと。そして、犬が自分で環境から逃れられないことです。
とくに車内放置の危険性については、環境省や気象庁が毎年「真夏でなくても短時間で車内温度が急上昇する」と注意喚起しています。窓を少し開けていても、直射日光を受けた車内は短時間で40℃以上になることがあります。犬の体温は数分〜十数分で危険なレベルに達する可能性があります。
アイペット損害保険の調査では、「家の中でお留守番中」が熱中症の発生シーンとして最も多かったとされています。次のような要因が重なりやすいと考えられます。
- 外出時にエアコンを切ってしまう
- 西日が強い部屋でカーテンを閉めていない
- ケージやサークルが風通しの悪い位置にある
その結果、飼い主が不在の間に室温と湿度が一気に上がってしまいます。
日本気象協会の調査では、エアコン設定温度は「25〜28℃が多数」とされています[1]。ただ、これはエアコンを適切に使用している場合の話です。「外出中は電気代節約のために消す」という行動は、直接的なリスクになります。
アニコムの獣医師による解説でも、「特に危険な場面」として次のようなシチュエーションが挙げられています[3]。
- 車の中でのお留守番
- エアコンをつけていない室内での留守番
- 直射日光の当たるベランダや屋外での係留
このような場面では、熱中症の症状(激しいパンティング、よだれ、ぐったりする、意識がもうろうとする等)に気づく人がそばにいません。応急処置どころか、発見自体が遅れがちになります。
日本気象協会の調査では、飼い主の5人に1人が「愛犬が熱中症にかかった場合の応急処置方法を知らない」と回答しています[2]。そもそも飼い主が近くにいない状況では、応急処置の知識を生かすことも難しくなります。
そのため、次のような「危険な環境を作らない工夫」が最重要の予防策になります。
- 車内に犬を残して離れない(「数分だけ」でも避ける)
- 留守番中は必ずエアコンを適切な温度で稼働させる(目安25〜28℃程度)[1]
- 日当たりや風通しを考えた場所に寝床やケージを置く
熱中症は、症状が出てからの応急処置も大切です。ただ、一次データが示すように「愛犬の4分の1が経験している」ほど頻度が高い病気です。危険な時間帯や場所を避けることが、命を守る第一歩といえます。
[1] 一般財団法人 日本気象協会 「熱中症ゼロへ」プロジェクト『飼い主に聞いた「愛犬の熱中症」に関する調査(熱ゼロ研究レポート No.8)』2019年7月(インターネット調査、n=325) [2] 一般財団法人 日本気象協会 「熱中症ゼロへ」プロジェクト『愛犬の熱中症に関する調査 愛犬の4分の1が熱中症にかかった経験あり』2019年7月31日プレスリリース [3] アニコム損害保険株式会社『犬の熱中症の見分け方は?症状や応急処置、熱中症対策を獣医師が解説』(2021年4月29日公開、2026年6月15日更新)
犬の熱中症の症状——初期サインから重篤化まで

熱中症では、「少し変だな」と感じる初期サインを見逃さないことが命を守る鍵になります。ここでは、公的機関や獣医師による一次情報をもとに、「軽い状態から重症化まで」の流れに沿って整理します。
見逃しやすい初期症状(パンティング・よだれ・充血)
さいたま市動物愛護ふれあいセンターは、犬猫の熱中症について、まず次のような初期症状が出ると説明しています[4]。
《初期症状》
・ハアハアと激しく呼吸(パンティング)している
・よだれが大量に出ている
・歯肉や舌、結膜などが充血、うっ血している
・心臓の動きが早い[4]
一見すると「暑いからハアハアしているだけ」にも見えます。ただ、いつもと違う強さ、量、様子かどうかをよく観察する必要があります。
初期サインのチェックポイントを、スマホでも確認しやすいように整理すると次のとおりです。
- 激しいパンティング(ハアハア呼吸)
- 口を大きく開けて舌をだらんと垂らしている
- 落ち着きがなく、ずっとハアハアが続く
-
涼しい場所に移っても呼吸が整わない
-
大量のよだれ
- 口の端からポタポタ垂れる
- 胸元や前足がべっとり濡れる
さいたま市の情報でも「よだれが大量に出ている」が初期症状として挙げられています[4]。体温を下げようと体が必死に反応しているサインと考えられます。
- 歯茎・舌・白目の充血
- 歯ぐきや舌の色が普段より濃いピンク〜赤色に見える
- 白目(結膜)の部分が赤くうっ血している
特に「いつものピンク」よりワントーン以上濃く見える場合や、赤ワインのようなべったりした赤さは要注意です。体内で血流が乱れている可能性があります。
- 心拍数の増加・落ち着きがない
- 胸に手を当てると心臓の鼓動が速い
- そわそわしてじっとしていられない
アニコム損害保険も、犬の熱中症では「呼吸の乱れ、よだれ、ふらつき」などの症状が段階的に現れるとし[3]、初期の呼吸状態の変化を重視しています。普段から愛犬の「正常な呼吸の速さ」や「舌・歯ぐきの色」を見慣れておくと、違和感に気づきやすくなります。
危険な重症サイン(嘔吐・チアノーゼ・けいれん・失神)
初期サインが出たあとも高温環境が続くと、体の機能が急速に追いつかなくなります。命に関わる重篤な症状が現れます。
さいたま市動物愛護ふれあいセンターは、重篤化した場合について次のように説明しています[4]。
《重篤化すると…》
・虚脱(ぐったりとして意識がない)状態になる
・下痢、嘔吐、ふるえを起こす
・意識が消失する
・けいれん発作が起こる
・呼吸困難になる[4]
アニコム損害保険の獣医師解説でも、熱中症では「ふらつき、嘔吐、痙攣、失神などの症状が段階的に現れる」とされ[3]、これらはすでに救急レベルのサインです。
重症サインは、次のようなイメージで判断すると分かりやすくなります。
- 虚脱・ふらつき・ぐったりして動けない
- 立とうとしてもよろける
- すぐに座り込む、倒れ込む
- 呼びかけに対する反応が弱い
さいたま市の情報でも、「虚脱(ぐったりとして意識がない)状態」は典型的な重篤症状とされています[4]。
- 嘔吐・下痢・震え(ふるえ)
- 繰り返し吐く
- 急な下痢をする
- 体がガタガタ震える
単なる食あたりなどと見分けがつかない場合もあります。ただ、高温環境にいた直後なら、まず熱中症を疑った方が安全です。
- 呼吸困難・チアノーゼ(青紫色の粘膜)
- 吸っても吐いても苦しそうで、胸だけが大きく上下する
- 舌や歯ぐきの色が青紫〜灰色っぽく見える
これは血液中に酸素が十分に行き渡っていない緊急事態です。一刻も早い受診が必要になります。
- けいれん発作・失神(意識消失)
- 体が突っ張って痙攣する
- 突然倒れて意識を失う
こうした症状は、脳や全身の臓器へのダメージがかなり進んでいるサインです。さいたま市も「けいれん発作」「意識が消失する」を重篤症状に挙げています[4]。アニコムの獣医師も、重度の熱中症では死亡や後遺症の可能性があると警告しています[3]。
これらの重症サインが一つでも見られたら、応急処置と同時進行で動物病院への連絡と搬送を最優先してください。「冷やしていればよくなるかも」と様子見をしている間にも、臓器障害は進んでいきます。
体温40〜43℃が命の分かれ目
見た目の症状と同じくらい大切なのが、体温がどこまで上がっているかという視点です。アニコム損害保険による獣医師解説では、犬の熱中症について次のようにまとめられています[3]。
犬の熱中症は体温調節が追いつかず命に関わる病気とされる
呼吸の乱れ、よだれ、ふらつき、嘔吐、痙攣、失神などの症状が段階的に現れる
体温40〜43℃は危険な状態で、重度では死亡や後遺症の可能性があるとされる[3]
犬の平熱は一般に約38.0〜39.0℃前後です。40℃を超えてくると、体内のタンパク質や細胞がダメージを受け始めます。43℃近くまで上がると、次のような危険な状態に進むとされます。
- 脳や肝臓、腎臓などの重要な臓器が障害を受ける
- 多臓器不全やDIC(播種性血管内凝固症候群)に進行する可能性がある
英国で約90万頭の犬を解析した研究では、熱中症と診断された犬の致死率は全体で14.18%、軽度なら2.21%ですが、重度まで進行すると56.76%に跳ね上がることが報告されています[3]。どの段階で気づけるかが生存率に直結すると分かります。
自宅にペット用体温計がある場合、次のような目安で考えると判断しやすくなります。
- 39.5℃前後:すでに発熱状態。環境を冷やしつつ動物病院に相談したいゾーン
- 40.0℃以上:危険域に入りつつある。応急冷却と受診を急ぐ
- 41.0〜43.0℃:生命の危機レベル。直ちに冷却と救急受診が必要
ぐったりしている、けいれんしているといった重症サインがあるときは、体温測定を後回しにしてください。まず冷却と病院への連絡、搬送を優先します。体温計で測っている間にも状態は悪化します。
まとめると、犬の熱中症では次のような流れで重くなっていきます。
- 初期:激しいパンティング、大量のよだれ、粘膜の充血、心拍数増加[4][3]
- 進行:ふらつき、嘔吐・下痢、震え[4][3]
- 重度:虚脱、呼吸困難、チアノーゼ、けいれん、失神[4][3]
- 体温:40〜43℃は命に関わる危険域[3]
「いつもより息が荒い」「よだれが多い」といった初期の違和感のうちに気づいて対処できるかどうかが、重症化を防ぐ最大のポイントです。
[3] アニコム損害保険株式会社『犬の熱中症の見分け方は?症状や応急処置、熱中症対策を獣医師が解説』(2021年4月29日公開、2026年6月15日更新) [4] さいたま市 保健衛生局 保健部 動物愛護ふれあいセンター『犬猫の熱中症に注意しましょう』
熱中症になりやすい犬種・犬の特徴

犬の熱中症は、基本的にどの犬にも起こり得ます。ただし一次データを見ると、犬種や体型、年齢によって発症リスクに大きな差があることが分かります。
アニコム損保の保険金請求データや英国の大規模疫学研究では、短頭種、大型犬、肥満、長毛、子犬、シニア、持病持ちが特にハイリスク群として一貫して示されています[3]。ここでは、「うちの子はどのくらい危ないのか」をイメージしやすいように整理します。
短頭種(フレンチ・ブルドッグ・パグ)は平均の3倍以上のリスク
日本のペット保険会社アニコム損保の熱中症調査では、犬種別の請求割合に大きな差が確認されています。同社の資料によると、フレンチ・ブルドッグは犬全体平均と比べて3倍以上の保険金請求割合がありました。パグ、ボストン・テリア、シーズーなど、いわゆる短頭種で高い傾向があるとされています(アニコム損害保険株式会社『犬と猫の「熱中症週間予報」』関連資料)。
短頭種が危険とされる理由は、解剖学的な特徴にあります。短い鼻、つぶれた顔立ち、狭い鼻腔・咽頭など「短頭種気道症候群」と総称される構造は、もともと呼吸のしにくさにつながります。熱を逃がしにくいという弱点です。
英国RVCが約90万頭の犬を解析した研究でも、著者らは次のように述べています。
Brachycephalic breeds, including the Bulldog, French Bulldog and Pug, were at significantly increased risk of heat-related illness compared with crossbred dogs.
(ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、パグを含む短頭種は、雑種犬と比較して熱関連疾患のリスクが有意に高かった)[Hall et al., Vet Rec 2020]
この研究では、短頭種は非短頭種の犬に比べておよそ2倍以上の熱中症リスクがあると報告されています。国やデータソースが変わっても「短頭種は熱中症ハイリスク」という結果が一致しています。
短頭種の代表例は次のとおりです。
- フレンチ・ブルドッグ
- パグ
- ボストン・テリア
- イングリッシュ・ブルドッグ
- シーズー
- ペキニーズ
- ボクサー など
これらの犬種は、比較的涼しい日や室内でも、少しの運動や興奮でパンティングが激しくなりやすい特徴があります。アニコム損保の解説記事でも「短頭種は一般的な犬より体温調節が苦手で、より一層の注意が必要」とされています[3]。
夏場の散歩時間、室内温度、カートや車内での待機時間など、すべての場面で早め早めの予防が求められます。
大型犬・長毛種・肥満犬も要注意
熱中症ハイリスク犬は短頭種だけではありません。アニコム損保の保険金請求データや各社の熱中症特集では、大型犬や長毛種、肥満犬も注意が必要なグループとして繰り返し言及されています[3]。
英国RVCの研究では、
Larger dogs and dogs with higher bodyweight relative to breed were at increased risk of heat-related illness.
(体格の大きい犬、同じ犬種の平均より体重が重い犬は、熱関連疾患のリスクが高かった)[Hall et al., Vet Rec 2020]
と報告されています。大きい、重い犬ほど熱をため込みやすいことが疫学的にも裏付けられています。
日本で該当しやすい例として、次のような犬が挙げられます。
- バーニーズ・マウンテン・ドッグ(大型+長毛)
- ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー(大型で活動量が多い)
- シベリアン・ハスキー、サモエド、シェットランド・シープドッグなどダブルコートの長毛種
- いわゆる「ぽっちゃり」「メタボ」と指摘されている犬全般
長毛・多毛の犬は、被毛が断熱材のように働き、一度上がった体温が逃げにくくなります。とくにダブルコート(オーバーコートとアンダーコートの二重構造)の犬種は、寒冷地には適していますが、真夏の日本では大きな負担になります。
肥満も大きなリスク因子です。RVCは熱中症リスク要因として「obesity(肥満)」を明記し、次のように指摘しています。
Obese dogs had significantly increased odds of heat-related illness compared with dogs of ideal bodyweight.
(肥満の犬は、理想的な体重の犬と比べて、熱関連疾患のオッズが有意に高かった)[Hall et al., Vet Rec 2020]
脂肪は断熱材のように体内に熱をため込むうえ、心臓や呼吸器への負担も増えます。「太っているから体力がある」とは考えない方が安全です。アニコム損保やアイペット損害保険の熱中症啓発でも、体重管理は熱中症予防の重要な柱として挙げられています[3]。
子犬・シニア犬・持病持ちの犬は特に慎重に
年齢や基礎疾患も、熱中症の重要なリスク因子です。RVCの研究では、4歳以上の犬では年齢が上がるほど熱中症リスクが増加し、とくにシニア犬で顕著だったと報告されています[Hall et al., Vet Rec 2020]。子犬も体温調節機能が未熟で、極端な暑さや環境変化に弱いとされています。
アニコム損保の熱中症解説では、
子犬やシニア犬は体温調節機能が未発達・低下しており、健康な成犬に比べて熱中症になりやすいため、より慎重な管理が必要です[3]
とされています。年齢による弱点を意識する必要があります。
英国RVCは、呼吸器疾患や心臓病などの基礎疾患もハイリスク要因として挙げています。
Dogs with cardiac disease or respiratory disease showed increased risk of heat-related illness compared with dogs without these conditions.
(心疾患または呼吸器疾患を有する犬は、これらを持たない犬に比べ、熱関連疾患のリスクが高かった)[Hall et al., Vet Rec 2020]
具体的には、次のような犬はとくに慎重な管理が必要です。
- 生後数か月以内の子犬(ワクチンが終わったばかりの月齢など)
- 7〜8歳以上のシニア犬、とくに大型犬の高齢個体
- 心臓病(僧帽弁閉鎖不全症など)で通院中の犬
- 気管虚脱、慢性気管支炎、短頭種気道症候群など呼吸器疾患のある犬
- 慢性腎臓病や内分泌疾患(クッシング症候群、甲状腺機能低下症など)を持つ犬
こうした犬は、少しの脱水や体温上昇でも臓器へのダメージが大きくなりやすくなります。アニコム損保のデータでは、犬の熱中症による診療件数は6月から急増し、7月がピークとされています[3]。真夏だけでなく、暑さに体が慣れていない時期から慎重に管理することが重要です。
Hallらの研究では、熱中症と診断された犬の致死率は全体で14.18%、重度に進行すると56.76%に達するとされています[Hall et al., Vet Rec 2020]。高リスクの犬ほど重症化しやすいことを示す数字ともいえます。
子犬、シニア犬、持病持ちの犬では、次のような「一段階厳しめ」の基準を設けると安心です。
- 室内でもエアコンと除湿で環境を一定に保つ
- 車での移動や通院時は短時間でも必ず冷房を効かせる
- 体調が万全でない日は散歩を控えめにする、あるいはさらに涼しい時間帯にずらす
[3] アニコム損害保険株式会社『犬の熱中症の見分け方は?症状や応急処置、熱中症対策を獣医師が解説』(2021年4月29日公開、2026年6月15日更新)
Hall, E.J., Carter, A.J. & Collings, A.J. (2020). "Hot Dogs: Risk factors for heat‐related illness in UK dogs." Veterinary Record.
愛犬が熱中症になったときの応急処置——「まず冷やしてから病院へ」

熱中症は進行が速い病気です。Hallらの報告では、重度まで進んだ犬の致死率が56.76%に達すると示されています[Hall et al., Vet Rec 2020]。
一方で、英国ロイヤル・ヴェテリナリー・カレッジ(RVC)は、犬の熱中症に対して「cool first, transport second(まず冷やしてから病院へ)」という原則を強く推奨しています。発見直後の10〜30分の応急処置が、その後の生死や後遺症を大きく左右すると説明しています(RVC, Heatstroke advice)。
さいたま市の『犬猫の熱中症に注意しましょう』でも、応急処置として「1.常温の水をかける 2.水で濡らしたタオルなどで包む 3.涼しい場所で風を送る」といった手順を示しています。「少しでも異変を感じたら動物病院へ」とも注意喚起しています[さいたま市 保健衛生局]。
これらを踏まえ、家庭でできる応急処置をステップごとにまとめます。
Step1:涼しい場所に移動させ、風を送る
まず行うべきなのは、暑さの原因から犬を離すことです。屋外なら日陰や木陰、室内ならエアコンの効いた部屋や風通しの良い場所に移動させます。
RVCも、熱中症を疑ったら即座に涼しい環境に移し、体温を下げる処置を始めるよう推奨しています(RVC, Heatstroke advice)。
このときのポイントは次のとおりです。
- 可能ならエアコンを26℃前後に設定し、扇風機やサーキュレーターで風を送る
- 呼吸が荒くぐったりしていれば、無理に立たせず、涼しい床に横たわらせる
- 首が曲がって気道が狭くならないよう、頭と首をまっすぐに保つ
さいたま市も、「涼しい場所で風を送る」ことを応急処置のひとつに挙げています[さいたま市 保健衛生局]。体をぬらして風を当てる「気化冷却」が、犬の体温を安全に下げるうえで重要です。
Step2:常温の水をかけて体温を下げる(氷水はNG)
次に、体温を実際に下げる処置を行います。RVCは犬の熱中症について「できるだけ早く体温を下げることが極めて重要」としたうえで、「冷水や常温の水を使った冷却」を推奨しています。同時に「氷水は避けるべき」と明記しています(RVC, Heatstroke advice)。
さいたま市の資料でも、応急処置の最初の項目として「常温の水をかける」とされています[さいたま市 保健衛生局]。水をたっぷり使った冷却が基本です。
家庭でできる方法は次のようになります。
- シャワーやホースで常温〜やや冷たい水を全身にかける
- 洗面器やバケツに水をため、タオルをひたして体を何度もぬらす
- 水をかけたあと、扇風機などで風を当てて気化させる
ここでありがちな誤解が、「氷水で一気に冷やしたほうが早いのでは」という考えです。氷水のような極端に冷たい水を使うと、皮膚の血管が急激に収縮します。深部体温がかえって下がりにくくなるとされています。
そのためRVCは、「氷水ではなく、冷水あるいは常温の水を使うこと」「体温が39℃程度まで下がったら冷却を中止すること」を推奨しています(RVC, Heatstroke advice)。
体温計があれば、直腸温を測りながら行うと安全性が高まります。目安は次のとおりです。
- 40℃以上:危険な状態。できるだけ早く冷却を開始
- 39℃前後まで下がったら冷やすのをやめる
38℃以下まで下げてしまうと冷やしすぎになり、低体温や循環不全を招くおそれがあります。
Step3:首・脇・股など太い血管の部位を冷やす
全身に水をかけつつ、とくに太い血管が通るポイントを重点的に冷やすと効率的に体温を下げられます。人の熱中症でも同じ考え方が用いられ、獣医学の分野でも広く推奨されています(RVC, Heatstroke advice)。
意識したい部位は次のとおりです。
- 首の両側(頸動脈付近)
- 前足の付け根(わきの下)
- 後ろ足の付け根(内股)
- 肉球
冷やし方の例は次のようになります。
- 水でしっかりぬらしたタオルを首・脇・股に当てる
- タオルが温まってきたら、洗面器の水で冷やし直す
- 肉球にも水をかけ、ときどき軽く押さえて水を行き渡らせる
さいたま市も「水で濡らしたタオルなどで包む」ことを応急処置として挙げています[さいたま市 保健衛生局]。タオルやハンカチ、保冷剤など、家庭にあるものを使いながら「太い血管を効率よく冷やす」ことがポイントです。
RVCは、若く健康な犬については「冷水への浸漬(浴槽に入れて水を張るなど)も有効」としています。一方で、高齢犬や心疾患などの持病がある犬には負担が大きくなる可能性があります。そのため、水をかけて風を当てる「気化冷却」を中心に行う方法の方が安全だと述べています(RVC, Heatstroke advice)。
意識がない場合はすぐ動物病院へ連絡しながら搬送
意識がもうろうとしている、呼びかけに反応しない、けいれんしているといった状態は、すでに重度の熱中症に移行している可能性が高いと考えられます。
アニコムの獣医師解説でも「意識がない場合は動物病院への連絡と早急な搬送が勧められる」とされています[アニコム 2021/2026]。自宅での対応だけに頼るのは危険な段階です。
この場合のポイントは次の3つです。
- 冷却と並行して、すぐにかかりつけや近隣の動物病院へ電話する
- 症状(呼吸の様子、ぐったりしているか、嘔吐・けいれんの有無)
- いつからどのような環境にいたか(散歩中・車内・室内など)
-
自宅で行っている応急処置の内容
を伝え、指示を仰ぎます。 -
搬送中も可能な範囲で冷却を続ける
- 水でぬらしたタオルを首・脇・股に当てる
-
エアコンを効かせた車内で移動する
-
舌を外に出した状態で横向きに寝かせる
- 意識がない、またはかなり弱い場合、仰向けでは舌が喉の奥に落ちて気道をふさぐ危険がある
- 横向きに寝かせ、舌をそっと外に出しておくと気道が確保しやすくなる
Hallらの研究では、重度の熱中症に進行した犬では致死率が56.76%と高い一方で、軽度の段階で適切な対応がなされた場合の致死率は2.21%にとどまると示されています[Hall et al., Vet Rec 2020]。
少しでもおかしいと感じたら病院に相談し、意識がない、立てないといった場合は「冷やしながら迷わず搬送する」ことが救命率を高める近道になります。
応急処置後は必ず動物病院へ——受診すべき症状と治療内容

日本気象協会の「熱中症ゼロへ」プロジェクトが行った調査では、犬の飼い主の5人に1人が、愛犬が熱中症になったときの応急処置方法を知らないと回答しています(日本気象協会「飼い主に聞いた『愛犬の熱中症』に関する調査」2019)。
同調査では「少しでも異変を感じたら動物病院へ連れていく」と答えた人も半数に満たないと報告されています。受診の判断に迷う飼い主が多い状況がうかがえます。
熱中症は進行が速く、重症化すると命にかかわります。「どこまでが自宅対応の範囲で、どの段階で受診すべきか」をあらかじめイメージしておくことが重要です。
こんな症状が出たらすぐ受診(判断チェックリスト)
Hallらの報告では、犬の熱中症で重度に進行したケースの致死率は56.76%でした。軽度の段階で適切な対応が行われた犬の致死率は2.21%にとどまっています[Hall et al., Vet Rec 2020]。
この差は、「様子を見ているうちに重症化させない」ことの大切さを示しています。
応急処置を始めたあと、次のような症状があれば「迷わず動物病院へ」という方針で判断すると安全です。
- 意識がおかしい
- 呼びかけに反応しない、ぼんやりしている
- ふらふら歩いて壁にぶつかる、倒れそうになる
- 自力で立てない・歩けない
- 座り込んだまま動かない
- 立たせてもすぐに崩れ落ちる
- 激しい呼吸が治まらない
- 口を大きく開けてハアハアし続ける
- 舌や歯ぐきが紫色〜青っぽく見える(チアノーゼ)
- 嘔吐や下痢を繰り返す
- 一度に大量に吐く
- 血が混じったような下痢をする
- けいれん・身体の震え
- 体が突っ張る、ガクガクと震える
- 目が上を向いている、瞳孔が開いている
- 体温が高いまま下がらない
- 直腸温で40℃前後以上が続く
- 冷却しても呼吸や脈が落ち着かない
上記のどれかひとつでも当てはまる場合は、応急処置を続けながらできるだけ早く受診することが推奨されます。
日本気象協会の調査では、獣医師の弓削田氏が次のようにコメントしています。
犬の熱中症は重症化して死亡することが多いため、早急に動物病院を受診することをおすすめします。熱中症は重い病気であると認識することが重要です。
これは「熱中症ゼロへ」プロジェクト レポートNo.8に記載されています。専門家の立場からも「早めの受診」が強く勧められています。
一見軽そうに見える場合でも、次のような犬は同じ症状でも重症化しやすくなります。
- 高齢犬
- 心臓病、呼吸器疾患、腎臓病などの持病がある犬
- 短頭種(フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズーなど)
- 肥満気味の犬
このような犬では、「迷ったら電話で相談し、指示があれば受診」を基本にすると安心です。
動物病院での治療(点滴・酸素吸入など)
動物病院に到着すると、多くの施設ではまず体温、心拍数、呼吸状態、粘膜の色などを迅速に確認します。重症度を評価し、治療方針を決めます。
Hallらの研究では、来院時の体温や意識レベル、出血傾向の有無などが予後に関係するとされています[Hall et al., Vet Rec 2020]。「どれだけ早く、どの程度の状態で病院に到着できるか」が、その後の治療方針を左右します。
主な治療内容は次のとおりです。
-
輸液(点滴)による循環の安定化
熱中症では脱水と血圧低下が起こりやすくなります。静脈点滴で水分と電解質を補い、循環を安定させます。アニコム損保の熱中症関連レポートでも、熱中症治療として輸液治療が中心となると紹介されています(アニコム損害保険「犬と猫の『熱中症週間予報』」関連情報)。 -
体温管理(冷却の継続・調整)
来院時にまだ体温が高い場合は、冷水やアルコールでの被毛の湿潤、送風などで冷却を続けます。過度な冷却で低体温になると予後が悪化する可能性があります。獣医師が温度を測定しながら微調整していきます。 -
酸素吸入・呼吸管理
呼吸が荒い、粘膜が紫色、肺に雑音があるといった場合には、酸素ケージやマスクで酸素吸入を行います。アニコム損保は熱中症による死亡事故の注意喚起の中で、重症例では呼吸不全を伴うことに触れています。同社の情報からも、酸素療法が命綱となるケースがあると分かります。 -
内臓障害への対応(薬剤投与など)
熱中症が進行すると、肝臓や腎臓、消化管、脳などに障害が及びます。血液検査やエコー検査で臓器ダメージの有無を確認し、必要に応じて抗嘔吐薬、胃腸薬、抗けいれん薬、抗生物質などを用います。Hallらは、凝固異常や多臓器不全が見られた犬ほど死亡リスクが高いと報告しています[Hall et al., Vet Rec 2020]。 -
入院管理
意識障害や重い臓器障害が疑われる場合、24時間の点滴管理や酸素管理が必要になることがあります。この段階まで進んだ熱中症は、見た目の症状が落ち着いても急変するリスクが高いと考えられます。自宅での経過観察では対応しきれないケースが多くなります。
このように、動物病院での治療は「水を飲ませて冷やす」といった応急処置にとどまりません。循環、呼吸、臓器機能を総合的にサポートする集中治療が中心になります。
応急処置はあくまで「病院に着くまで命をつなぐための行動」です。治療の主役は動物病院であると理解しておきましょう。
治療費の目安——通院1.7万円、入院は8.7万円になることも
熱中症では命の問題が最優先ですが、同時に治療費も気になるところです。アニコム損害保険が公表している保険金支払データによると、犬の熱中症に関する1件あたりの平均治療費は、通院で約1.7万円、入院が必要な場合は約8.7万円と報告されています(アニコム損保「犬・猫の熱中症」に関する調査・分析データ)。
実際の金額は症状の重さや治療内容、地域、時間外診療かどうかなどで変わります。ただ、次のような傾向は多くの症例で共通しがちです。
- 様子見をしている間に重症化 → 入院・集中治療となり、費用が高額になりやすい
- 早期に受診し軽症のうちに治療 → 通院のみで済み、負担が比較的少なくなる
Hallらのデータでも、重度熱中症に進行した犬は致死率だけでなく合併症の頻度も高いとされています[Hall et al., Vet Rec 2020]。重症化は医療リスクと経済的負担の両方を増やします。
万一に備えて、次の点も確認しておくとよいでしょう。
- ペット保険に加入する、あるいは補償内容を確認する
- 夜間救急や時間外診療の料金体系を事前に調べておく
- クレジットカードや電子マネーの利用可否を確認しておく
こうした準備があれば、「お金の不安で受診をためらう」事態を避けやすくなります。アニコム損保は熱中症の発生リスクが高まる時期に「熱中症週間予報」を提供し、早めの対策と注意喚起を行っています(アニコム損保「犬と猫の『熱中症週間予報』」)。
経済的な備えも含めて「早めに動くこと」が、愛犬の命と家計の両方を守る鍵といえます。
応急処置で一時的に落ち着いたように見えても、体の中ではダメージが進んでいる可能性があります。日本気象協会の調査では、飼い主の多くが「異変を感じても受診をためらう」傾向があると示されています(日本気象協会「愛犬の熱中症に関する調査」)。
熱中症に限っては「心配しすぎ」くらいを基準に、積極的に動物病院へ相談、受診することが安全な選択です。
犬の熱中症を防ぐための予防・対策

犬の熱中症は、なってからの応急処置だけでは命を守りきれない場合が多くあります。日頃からの環境づくりと生活パターンの見直しが重要です。
日本気象協会が325名の飼い主を対象に行った調査では、約4分の1(24.3%)の犬が熱中症を経験していると報告されています(日本気象協会「飼い主に聞いた『愛犬の熱中症』に関する調査」)。決して珍しいトラブルではありません。
発生シーンは「日中の散歩中」だけではありません。「室内で過ごしているとき」が29.1%と多く報告されています。同調査は、屋外だけでなく自宅の中でも予防対策が欠かせないことを示しています。
アニコム損害保険のデータでも、犬の熱中症による診療件数は6月から急増し、7月がピークとされています(アニコム損害保険「犬と猫の『熱中症週間予報』」)。真夏の猛暑日だけでなく、梅雨明け直後や暑さに体が慣れていない時期から対策を始めることが大切です。
ここでは、室内、散歩、留守番、外飼いといったシーン別に、具体的な予防策を整理します。
室内の適切な温度・湿度管理(エアコン設定25〜26℃、湿度50〜60%)
犬は全身で汗をかけません。パンティング(ハアハアと速い呼吸)と足裏の汗だけで体温を調節しています。そのため人より高温多湿の環境に弱いとされます。
ペット専門メディア「ペトこと」に寄稿する獣医師は、犬にとっての室内環境について「適温は23〜26℃、湿度は45〜60%が目安」と解説しています。とくにシニア犬や短頭種では厳守したい範囲です(PETOKOTO獣医師監修記事)。
日本気象協会の調査では、飼い主の多くがエアコン設定温度を25〜28℃にしていると報告されています(日本気象協会「飼い主に聞いた『愛犬の熱中症』に関する調査」)。人と犬の両方に無理のない設定は25〜26℃前後といえます。
実践しやすいポイントは次のとおりです。
- エアコン設定温度は25〜26℃を基本にする
- 直射日光が強い部屋や気密性の高い住宅では、温湿度計で実際の室温を確認しながら調整する
- 湿度は50〜60%を目安に保つ(除湿機能や除湿機を併用する)
- 扇風機やサーキュレーターで空気を循環させ、床付近にも冷気を行き渡らせる
- 窓からの直射日光と熱気を遮る(遮光カーテン、断熱フィルムなどを利用し、窓際にベッドを置かない)
アイペット損害保険の調査では、暑い時期に「愛犬の体調変化を感じた」飼い主が53.0%、「熱中症と診断された」が9.4%と報告されています(アイペット損保「ペットの暑さ対策に関する調査」2024年)。半数以上の犬が夏場に何らかの不調サインを見せていることが分かります。
軽いパンティングや食欲低下だけでも、室温や湿度設定を見直すサインと受け止め、こまめに環境調整を行うことが重要です。
散歩は朝夕の涼しい時間帯に——アスファルトの熱にも注意
熱中症の発症シーンで最も多く報告されるのが「日中の散歩中」です。日本気象協会の調査でも、「愛犬が熱中症にかかった場面」として日中の散歩中が44.3%で最多でした(同調査)。
獣医師による解説でも「散歩時の時間帯・路面温度が予防の基本」と繰り返し強調されています(佐藤貴紀獣医師『犬の熱中症の見分け方は?症状や応急処置、熱中症対策』)。散歩時は「いつ・どこを歩くか」が大きなポイントになります。
散歩時に心がけたいことは次のとおりです。
- 散歩は早朝や日没後の涼しい時間に行う
- 気温だけでなく直射日光と地面の温度に注意する
- 散歩前にアスファルトを手の甲で数秒触り、熱くて触っていられない場合は時間をずらす
- 影の多いルートや土・芝生のある道を選ぶ
- こまめな水分補給と休憩をとる(水を持参し、少しずつ飲ませる)
とくに短頭種、肥満気味の犬、シニア犬は、普通の散歩でも熱中症リスクが高いとされます。次のような変化が見られたら、散歩を切り上げて涼しい場所に戻り、体調をよく観察してください。
- 息が普段より明らかに荒い
- 舌の色がいつもより赤い、あるいは紫がかっている
- 歩くのを嫌がる、立ち止まることが増える
留守番中・車内での対策(短時間でも車内放置はNG)
日本気象協会の調査では、「室内で過ごしているとき」に熱中症になったケースが29.1%と報告されています(同調査)。留守番中の室温管理の甘さが、重大なリスク要因になっていると考えられます。
外出時の対策として、最低限押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 留守番中もエアコンは必ずつける(設定温度は25〜28℃を目安に)
- 窓を開け放つだけ、扇風機だけといった方法には頼らない
- 見守りカメラや温湿度センサーを活用し、外出先から室内の様子を確認する
もっとも危険なのが車内放置です。環境省などの実験でも、真夏日でなくても車内温度が短時間で急上昇することが繰り返し示されています。「熱中症ゼロへ」プロジェクトも、短時間でも車内放置は絶対にしないよう強く呼びかけています(日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクト)。
-
エンジンをかけたままでも車内放置は避ける
エアコンが故障した車内で犬が熱中症になった事例も報告されています。アイドリング中にエンジンが停止するケースもあります。「数分だけ」「エアコンが効いているから」といった理由で犬だけを車内に残さないことが原則です。 -
車での移動中もこまめに状態を確認する
キャリーケース内は空気がこもりやすく、エアコンの風が届きにくい場合があります。移動中も呼吸の状態、舌の色、よだれの量をチェックし、ハアハアが強くなってきたら温度設定を下げる、休憩を増やすなどの対応を行います。
「熱中症ゼロへ」プロジェクトの調査では、「愛犬が熱中症にかかった場合の応急処置方法を知らない」飼い主が5人に1人いることも示されています(日本気象協会「飼い主に聞いた『愛犬の熱中症』に関する調査」)。
留守番や移動中に備え、家族全員が基本的な応急処置を共有しておくことも、予防策の一部と考えるべきです。
外飼いの犬は日陰・風通し・十分な水を確保
屋外で飼育している犬は、直射日光、輻射熱、湿気のすべてにさらされやすい状況にあります。環境によっては、室内以上に熱中症リスクが高くなります。
日本の自治体も、犬の熱中症対策として具体的な注意点を示しています。たとえば埼玉県越谷市は、公式サイトで「夏場の犬の飼育環境」に関する対策を詳しく解説しています(越谷市公式ウェブサイト「犬の熱中症対策」)。
こうした情報も参考にしながら、次の点を徹底してください。
- 一日中確実に日陰になるスペースをつくる
- サンシェードやタープ、よしずなどを使い、朝から夕方まで通して直射日光を避けられる広めの日陰を確保する
- 風通しのよい場所にハウスを設置する
- 壁や塀に囲まれた角やベランダの奥など、風が通りにくい場所は避ける
- いつでも新鮮な水をたっぷり飲めるようにする(複数のボウルを用意し、日陰に置く)
直射日光の当たる場所に水を置くと、すぐにお湯のように熱くなってしまいます。朝晩の交換だけでなく、気温の高い日は昼にも水を入れ替えると安心です。
できるなら夏季は屋内飼育も検討してください。アニコム損保や各種研究データが示すように、犬の熱中症は命に関わる重い病気です(Hall et al., Vet Rec 2020; アニコム損害保険)。重症になるほど死亡率が跳ね上がることが分かっています。
猛暑日や熱帯夜が続く時期は、一時的にでも室内に入れて管理することが、もっとも確実な予防策です。
外飼いの場合、飼い主が不在の時間帯に犬の様子を細かく観察することは難しくなります。「気づいたときにはぐったりしていた」というケースが少なくありません。
日本気象協会の調査でも、獣医師は「犬の熱中症は重い病気であると認識することが重要」とコメントしています(日本気象協会「飼い主に聞いた『愛犬の熱中症』に関する調査」)。
「昔は外で平気だったから」という感覚を見直し、現在の猛暑環境に合わせた飼育スタイルを選ぶことが、愛犬の命を守る第一歩です。
よくある疑問Q&A——熱中症対策の「これって大丈夫?」

Q. 夜の散歩なら安全?
夜や日没後の時間帯は涼しく感じられることが多いですが、「必ず安全」とは言えません。
夏のアスファルトは日中に太陽光で多くの熱をため込みます。日が沈んだあとも、路面温度はすぐには下がりません。輻射熱によって、犬の体を下から温め続けます。
人より地面に近い犬、とくに小型犬はその影響を強く受けます。夜の散歩でも熱中症を起こす可能性があります。
日本気象協会の調査では、熱中症を経験した場面として最も多いのは「日中、散歩している時」44.3%です。次に多いのは「室内で過ごしている時」29.1%でした(日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトレポートNo.8)。日中の屋外だけが危険なのではないと分かります。「日が落ちたから安心」と考えると、危険の見落としにつながります。
とくに注意したいのは次のような日です。
- 熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上)の予報が出ている日
- 夕立のあとなどで湿度が高い日
- 日中の猛暑でアスファルトが十分に冷えきっていない日
散歩の前には、地面に手の甲をつけて3〜5秒触れられるかを確かめてください。熱いと感じる場合は、土や芝生があるコースに変更する、時間をさらに遅らせる、散歩時間を短くするなどの調整が安心です。
SNS上には、「夜8時頃に散歩に出たところ、アスファルトがまだ熱く、帰宅後に愛犬が激しいパンティングを続け、翌日動物病院で熱中症と診断された」といった投稿も見られます。
時間帯だけで判断せず、路面温度や湿度を含めて総合的に安全かどうかを判断することが重要です。
Q. 水を飲んでいれば熱中症にならない?
こまめな水分補給は熱中症予防に役立ちます。ただ、「水を飲んでいれば絶対にならない」とは言えません。
犬の熱中症は、体内に水があるかどうかだけで決まるものではありません。体温調節そのものが追いつかなくなることで起こる病気です。
獣医師による解説では、「犬の熱中症は体温調節が追いつかず命に関わる病気」とされています。呼吸の乱れ、よだれ、ふらつき、嘔吐、痙攣、失神などの症状が段階的に現れると説明されています(佐藤貴紀獣医師「犬の熱中症の見分け方は?症状や応急処置、熱中症対策を獣医師が解説」)。
水を飲んでいても、高温多湿の環境で長時間過ごせば、体温はどんどん上がってしまいます。
同記事では、英国の約90万頭の犬を対象にした研究も紹介されています。熱中症と診断された犬の致死率は14.18%、軽度でも2.21%、重度では56.76%に跳ね上がると報告されています(Hall EJ ら, Vet Rec 2020)。
「喉が渇いたら飲んでいるから大丈夫」と考えず、水分補給はあくまで予防策の一部と理解しておくことが重要です。
水を飲んでいても熱中症になる典型的な状況には、次のようなケースがあります。
- エアコンを使わず、窓を閉め切った室内で留守番
- 日陰はあるが風通しの悪いベランダや庭での外飼い
- 夏の車内での待機(短時間のつもりでも危険)
- 真夏の日中や暑い時間帯の激しい運動
日本気象協会の調査では、愛犬の熱中症予防として「こまめな水分補給」を挙げる飼い主が多い一方で、5人に1人は熱中症になった場合の応急処置方法を知らないとされています(同レポート)。
水分補給だけに頼らず、次のような環境面の対策とセットで考えてください。
- 室温と湿度を適切に管理する(室温25〜26℃前後、湿度50〜60%程度)
- 直射日光、風通しの悪さ、閉め切った空間を避ける
- 暑い時間帯の散歩や激しい運動を控える
Q. 室内にいれば安心?
「家の中にいるから大丈夫」と思いがちですが、室内でも熱中症は起こり得ます。
日本気象協会の「飼い主に聞いた『愛犬の熱中症』に関する調査」では、愛犬が熱中症になった場面として「日中、散歩している時」44.3%に次いで、「室内で過ごしている時」が29.1%を占めています(日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトレポートNo.8)。
同調査で獣医師は「犬の熱中症は重症化して死亡することが多いため、早急に動物病院を受診することをおすすめします。熱中症は重い病気であると認識することが重要です」とコメントしています。屋外だけでなく、屋内でも環境管理の重要性が強調されています。
室内で熱中症が起こりやすいのは、次のようなケースです。
- 留守中、エアコンを切って窓を閉め切っている
- 風通しが悪く湿度が高い部屋にケージを置いている
- 直射日光が差し込む窓辺で長時間過ごしている
- 2階以上の部屋で、屋根や天井からの熱で室温が上がりやすい
エアコンをつけていても、次のような要因が重なるとリスクが高まります。
- エアコンの風が届きにくい場所にベッドがある
- ケージにカバーをかけて風が通らない
- 留守中の停電やエアコンの故障が発生した
SNS上でも、「留守中の停電でエアコンが止まり、帰宅したら愛犬がぐったりしていた」「窓を閉めた部屋で寝ていたら、夜のうちに熱中症の症状が出ていた」といった体験談が見られます。
室内での熱中症を防ぐために、次のような対策を徹底してください。
- 夏場の留守番時はエアコンを必ず使用し、設定温度は25〜28℃程度にする
- エアコン任せにせず、サーキュレーターで空気を循環させる
- 直射日光を遮るため、カーテンやすだれなどを活用する
- 停電に備え、窓を少し開けておける工夫や、暑さが厳しい日は長時間の留守番を避ける
日本気象協会の調査では、エアコンの温度は25〜28℃に設定している人が多数派と報告されています。ただ、それでも29.1%が「室内で熱中症を経験している」現状があります。
「室内=安全」と考えるのではなく、「室内だからこそ温度と湿度の管理を徹底する」という意識が欠かせません。
Q. 熱中症になった犬は翌年も再発しやすい?
一度熱中症になった犬は、翌年以降も再発しやすい傾向があると考えられています。ペット保険会社が蓄積した実データからも、その可能性が示唆されています。
アニコム損害保険は、保険金請求データをもとに犬と猫の熱中症リスクを分析し、「犬と猫の『熱中症週間予報』」として情報発信を行っています。最新の発表では、2025年の犬の熱中症による診療件数が1,439件にのぼり、診療件数は6月から激増し、7月がピークと報告されています(アニコム損害保険株式会社「犬と猫の『熱中症週間予報』、4月24日から配信開始」2026年4月24日)。
同社の分析では、前年に熱中症を経験した犬は、翌年も熱中症請求が発生しやすいことがデータから読み取れるとされています。
一方で、Hallらが英国の約90万頭の犬を解析した研究では、重度の熱中症まで進行した犬の致死率は56.76%に達すると報告されています(Hall EJら, Vet Rec 2020)。
一度重い熱中症を経験した犬では、そのときのダメージが心臓や脳、腎臓などの臓器に後遺症として残る可能性があります。その結果、暑さへの耐性が下がり、再発リスクが高まると考えられます。
SNS上でも、「去年の夏に散歩中に熱中症で倒れて入院した」「今年は早朝しか散歩しないようにしている」という投稿や、「散歩仲間の犬が2年連続で夏に熱中症になり、2回目は助からなかった」という体験談が共有されています。
一度助かったからもう大丈夫、とは考えない方が安全です。「注意すべき体質」として毎年の夏を過ごす意識が必要です。
一度熱中症を起こした犬では、とくに次のような対策を強めることが推奨されます。
- 例年以上に早い時期(5〜6月頃)から暑さ対策を始める
- 散歩は日の出直後や日没後でも路面温度を確認し、時間を短めにする
- 真夏は屋外での運動量を減らし、頭を使う室内遊びに切り替える
- 留守番時の室温管理をより厳格にし、ペットカメラなどで様子を確認する
アニコム損保の熱中症週間予報のようなサービスを活用し、「今週は危険度が高いから散歩は控えめにしよう」といった具体的な行動につなげるのも有効です。
一度の熱中症経験を「注意すべきサイン」として受け止め、翌年以降の生活スタイルや環境を見直すことが、再発防止には欠かせません。
まとめ
犬の熱中症は、気づくのが遅れると命に関わる危険な病気です。ただ、症状のサインと正しい応急処置、日頃の予防を知っていれば、リスクは大きく減らせます。
この記事で見てきたように、パンティングやよだれ、ぐったりするなどの変化を見逃さないことが重要です。異変を感じたら涼しい場所へ移動させて体を冷やし、必ず動物病院を受診してください。
暑さ対策は「少し慎重すぎる」くらいでちょうどよいと考え、愛犬の様子をよく観察しながら、安心して夏を過ごせる環境づくりを心がけていきましょう。
よくある質問

Q1. 犬の熱中症の初期症状だけなら、自宅の応急処置だけで様子を見てもいいですか?
初期症状(いつもより激しいパンティング・よだれ・歯ぐきや舌の赤みなど)の段階でも、「自宅だけで様子を見る」は危険です。
記事中で紹介した英国RVCのデータでは、軽度のうちに対応できた犬の致死率は2.21%ですが、重度まで進むと56.76%まで跳ね上がります。進行が非常に速い病気なので、
- すぐに涼しい場所へ移動し、常温の水で全身をしっかり冷やす(首・わき・股・肉球を重点的に)
- 冷やしながら、できるだけ早く動物病院へ電話相談する
という流れが基本です。
以下のいずれかがあれば「即受診」が推奨されます。
- ふらつき・虚脱(ぐったりして立てない)
- 嘔吐・下痢・震え(ふるえ)
- 呼びかけに反応しない、意識がもうろうとしている
- けいれん・失神
これらがなくても、初期症状が10〜15分の冷却で明らかに改善しない場合は、迷わず受診を検討してください。
Q2. 応急処置で体温が下がって元気になった場合も、必ず動物病院に行くべきですか?
一度は落ち着いたように見えても、体の中では臓器障害や血液の凝固異常が進んでいることがあります。そのため、「元気が戻ったかどうか」に関係なく、できるだけ動物病院でのチェックを受けるのが安全です。
とくに次のような場合は、必ず受診してください。
- 体温が40℃以上あった
- ぐったりして動けない時間があった
- 一度でも嘔吐や下痢、震えが出た
- 舌や歯ぐきが紫っぽくなったことがある
獣医師は、体温・心拍・呼吸のほか、血液検査で腎臓・肝臓のダメージや凝固異常の有無を確認します。早期に異常が見つかれば、重い後遺症や数日後の急変を防げる可能性が高まります。
Q3. 家にある保冷剤や氷は、応急処置で使っても大丈夫ですか?
使い方によっては有効ですが、「氷水で全身を急激に冷やす」のは推奨されません。RVCも、犬の熱中症では冷水〜常温水での冷却を勧め、氷水は避けるべきとしています。
保冷剤・氷を使うときのポイントは次のとおりです。
してよい使い方
- タオルでくるんだ保冷剤を、首の両側・わきの下・内股など太い血管部分に当てる
- アイスノン枕のように、タオル越しに首の後ろや胸の下あたりに当てる
避けたい使い方
- 氷水に全身をつける
- 保冷剤や氷を直接皮膚に当て続ける(凍傷のリスク)
- 小型犬や子犬に、大きな冷却刺激を長時間与える
基本は「常温〜やや冷たい水で全身をしっかりぬらし、風を当てて気化冷却する」こと。そのうえで、タオルに包んだ保冷剤を補助的に使うと、安全かつ効率的に体温を下げられます。
Q4. 熱中症が疑われるとき、水はどのくらい飲ませていいですか?一気飲みさせても大丈夫?
熱中症では脱水も起こるため、水分補給は重要ですが、「一気飲み」は避けた方が安全です。
【基本ルール】
- 意識がはっきりしていて、自力で立って飲めるなら
- 常温の水を、少量ずつ頻回に与える(数口飲んだらいったん休ませる)
- むせる・咳き込む・舌がうまく動いていない場合
- 無理に飲ませない(誤嚥や吐き戻しの危険があります)
大量に一気飲みすると、
- 吐き戻し → さらに脱水が進む
- お腹が冷え過ぎる → 体温調節を乱し、体調を崩す
といったリスクがあります。
意識がはっきりしていても、初期〜中等度の熱中症が疑われる場合は、「水を少し飲ませる+冷却しながら病院へ」が安全です。ぐったりしている・座り込んだまま動かないなどの状態では、飲水より受診を優先し、点滴での補液が必要になることが多いと考えてください。
Q5. 熱中症のとき、どの部位を重点的に冷やすのが効果的ですか?
犬の体温を効率よく下げるには、「太い血管が通っている部分」と「熱を放散しやすい部分」を冷やすのが有効です。
とくに重点的に冷やしたいのは次の部位です。
- 首の両側(頸動脈のあたり)
- 前足の付け根(わきの下)
- 後ろ足の付け根(内股)
- 胸からお腹にかけての面積が広い部分
- 肉球
具体的な方法:
- 常温〜やや冷たい水で全身をたっぷりぬらす
- 水で冷やしたタオルを、首・わき・内股に当てる
- 濡れた体に扇風機やうちわで風を当てて、気化熱で冷やす
頭だけを冷やし続ける、背中だけに保冷剤を当てる、といった局所的な冷却よりも、これらの「血流の多い部分+全身」を組み合わせて冷やす方が、深部体温を下げるのに効果的です。
Q6. 熱中症になりやすい短頭種やシニア犬では、夏の散歩はどの程度まで制限すべきですか?
短頭種(フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズーなど)やシニア犬は、一般的な成犬より明らかに熱中症リスクが高いため、「普通の散歩コース・時間帯」をそのまま当てはめない方が安全です。
おすすめの基準は次のとおりです。
- 時間帯
- 真夏は「日の出直後〜朝7時頃まで」「日没後〜路面温度が十分に下がった時間帯」のみ
- 距離・時間
- いつもの半分以下から始め、呼吸や舌の色を見ながら調整(10〜15分以内を目安に)
- コース
- 影が多い・風が通る・土や芝生のあるルートを優先
- 坂道や階段、ダッシュが必要な場所は避ける
- 体調が少しでも万全でない日は
- 排泄だけの超短時間散歩+室内遊びに切り替える
散歩中、次のようなサインが出たら、その時点で引き返し、帰宅後すぐに体を冷やしながら様子を見てください。
- いつもより息が荒く、舌が長く垂れた状態が続く
- 舌や歯ぐきの色が濃いピンク〜赤色になっている
- 歩く速度が急に落ちる、座り込む
少し慎重すぎるくらいの基準で「距離を短く・時間を早く(または遅く)」を徹底することが、短頭種・シニア犬の命を守るカギになります。
