犬は去勢手術で死亡する?全身麻酔のリスクと去勢手術をしないリスク

健康なオスの犬に全身麻酔をして、体にメスを入れる去勢手術。
問題行動の抑制や病気の予防のために必要な処置だとわかっていても、愛犬に全身麻酔をすることは大きな抵抗がありますよね。愛犬も大切な家族ですから、去勢手術を受けさせるのはとても不安だと思います。

去勢手術では、術前検査の際に全身麻酔のリスクを説明されます。
どのような手術であっても、不測の事態が起こる可能性をゼロにすることはできません。
全身麻酔のリスクを聞いて、最悪の場合には死亡することもあると知り、不安を持っている飼い主さんもいらっしゃるでしょう。

本記事では、全身麻酔のリスクを減らすために獣医師がしていること、そして去勢手術への不安を前向きにとらえるためのヒントをまとめています。
去勢手術が不安な方は、ぜひ参考にしてください。

動物病院で麻酔を使う理由と死亡の可能性

動物病院では、動物の安全を守るために麻酔が使われています。
手術は犬の体に強い痛みが加わり、そのショックは麻酔なしでとても耐えられるものではありません。
麻酔を使うことによって犬を眠らせ、体への負担や痛みを避けることができるのです。

もちろん麻酔にはリスクがあり、麻酔が直接的な死因になることもあります。
それでも動物病院で麻酔を行うのは、麻酔のデメリットを上回るメリットがあると確証を得ているからです。
たしかに去勢手術で全身麻酔を行うことはリスクがありますが、それ以上に手術によって得られるメリットがたくさんあります。
「麻酔は危ないから避ける」のではなく、麻酔のリスクと手術で得られるメリットを比較して、冷静に考慮してみましょう。

全身麻酔

全身麻酔はほかの麻酔と比べて、死亡リスクが高いとされています。
主な原因として、薬剤へのショック反応や呼吸器系・心血管系の合併症だといわれています。
全身麻酔はリスクがあるので、手術前に犬が全身麻酔に耐えられるかどうかを調べる検査が欠かせません。
リスクがある分、獣医師も慎重に検査を行ってリスク回避に努めているのです。

動物の場合は、ほとんどの手術が全身麻酔で行われます。
全身麻酔をすると、犬は眠って痛みを感じなくなるので、起きている間にはできないさまざまな手術が可能です。
去勢手術のように、犬が眠っている間にしかできない手術もあり、全身麻酔は大きなメリットがあるといえます。
手術だけではなく、歯石除去などの歯の治療でも全身麻酔をします
麻酔のリスクをゼロにすることは難しいですが、手術中も徹底された管理のもと、全身麻酔が行われているのです。

全身麻酔をかける際は1種類の薬だけではなく、犬の年齢や状態に合わせて薬を見極め、量を調整しながら使用します。
バランスよく調整し、「鎮痛」「鎮静」「筋弛緩」の効果が最大限発揮できるように薬を配合します。

鎮静麻酔

全身麻酔ほどではありませんが、鎮静麻酔にも死亡リスクがあります。
鎮静麻酔においても、リスク回避のために術前検査や手術中の麻酔の管理が欠かせません。
鎮静麻酔とは、意識を完全に失わせるものではなく、意識をもうろうとさせる麻酔です。
意識を完全に失っているわけではないので、強い刺激が加わると犬が動く可能性があります。
そのため、鎮静麻酔は外科的な手術にはあまり向いていません。

鎮静麻酔は、主に以下のような場合に行われます。

・短時間で済む簡単な処置
・CT検査
・X線検査
・超音波検査

「意識を失わせるほどではないけれど、犬が動いたら困る」といった場合に、鎮静麻酔を行うことが多いです。

去勢手術のリスクを下げるためにしていること

去勢手術を受けさせる時は、全身麻酔だけではなく手術自体にもリスクがあることを考慮しなければいけません。
去勢手術の説明を聞いて、たくさんのリスクがあることを知り不安に思う飼い主も多いでしょう。
しかし、動物病院は去勢手術のリスクを下げるために、さまざまなことを行い最善を尽くしてくれます。
では動物病院は一体どのようなことを行い、去勢手術のリスクを下げているのでしょうか。

術前検査

去勢手術を受ける前には、必ず術前検査が行われます

術前検査では、一般的に以下の検査を行います。

  • 身体検査
  • 血液検査
  • レントゲン検査
  • 超音波検査

これらの検査は、犬は全身麻酔に耐えられる状態なのか、何か疾患を抱えていないかを調べるものです。
術前検査の結果によっては、手術を延期せざるを得ないこともあります。
ほかにも、米国麻酔学会(ASA)による患者の健康状態に応じた麻酔リスク分類(麻酔評価基準)を犬にも活用して評価を行います。

以下が麻酔リスクの評価表です。

ASA Class患者の状態
ClassⅠ健康で鑑別できる疾病が無い緊急でない手術、卵巣子宮摘出、去勢、抜爪 
ClassⅡ健康であるが局所的疾患のみ、もしくは軽度の全身疾患を有する膝蓋骨脱臼、皮膚腫瘍、口蓋裂(誤嚥性肺炎をともなわない) 
ClassⅢ重度の全身性疾患を有する肺炎、発熱、脱水、心雑音、貧血 
ClassⅣ重度の生命にかかわる、全身性疾患を有する心不全、腎不全、肝不全、重度の循環血液量の減少、重度の出血

出典:小動物臨床における鎮静・麻酔法の選択 - 日本獣医師会

ClassⅠは健康な状態、ClassⅤは重篤な状態です。

血液検査などで犬の健康状態がわかると、獣医師はこの分類表から犬が全身麻酔を受けられる状態かを判断します。
犬が健康であるほど、全身麻酔のリスクは少ないといえます。

術中管理

去勢手術中は、心電図モニターなどを用いて犬が呼吸しているか、心臓が動いているかなどをリアルタイムで確認します。
手術中の犬の状態をリアルタイムで把握することによって、万が一の事態にも早急に対応が可能です。
獣医師は去勢手術を進めながら、しっかりと犬の健康状態を管理・把握しています

術後管理

全身麻酔が原因で犬が亡くなってしまう事例は、手術後3時間以内に発生することが多いといわれています。
そのため、去勢手術がすべて終わればもうリスクはなく安心、というわけではありません。
去勢手術後も不測の事態に備えて、動物病院ではしっかりと術後管理を行っています。
もし犬の調子がよくなければ、薬の投与や点滴が必要です。
そして手術後は犬の体温が低下することが多いので、ヒーターなどを用いて犬の体を保温してあげる必要があります。
このように、獣医師は去勢手術後もしっかりと犬の体調を把握して、適切な処置を行っています。

まとめ

全身麻酔は体によいものではなく、できるだけ避けなければいけないものです。
しかし、去勢手術を受けることで得られるメリットが、全身麻酔のリスクを大きく上回っていることも事実です。
初めての去勢手術で、
「小さな体で全身麻酔に耐えられるのか」
「手術自体の負担が大きすぎるのではないか」
と不安になるかもしれません。
そういった飼い主の不安を解消するために、動物病院ではさまざまなリスク管理が行われています
去勢手術を受けるメリットとデメリットをしっかり比べて、愛犬にとって一番よい選択をしてあげましょう。

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